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研究内容

粉体とは固体の小さい粒が多数集まったもので、私たちの身の回りでは食品や医薬品、化粧品など数多くの製品に利用されています。粉体は固体に分類されますが、扱い方によっては気体や液体のように振る舞うことがありますので、粉体を使った製品の生産は簡単ではありません。とくに最近では、取り扱う粉体の大きさがますます小さくなり、さらに、これまでにはなかった高機能・高性能な製品に対するニーズの高まりから、異なる種類の粉体を組み合わせて新しい粉体を創成する必要が生じていますので、その製造法、つまり、粉体プロセスの開発・解析・評価が極めて重要となっています。そこで私たちの研究グループでは、機能性粉体の創成を目的として、様々な粉体プロセスについて基礎的な検討から応用・実用化に至るまで、様々な角度・観点から研究を行っています。

応用分野:医薬品、化粧品、洗剤、トナー、セラミックス、食品、電子材料など 粒子設計 スケールアップ 計測と制御 微粒子プロセッシング ナノテクノロジー 数値シミュレーション

とりわけ、ナノテクノロジーを駆使することで、環境に優しい粉体プロセスの構築について重点的に取り組んでおり、例えば超臨界流体や水熱反応場を用いたナノ粒子の合成や、高性能な医薬品・化粧品を製造するための各種粉体処理装置の開発やスケールアップ、モデル解析、コンピュータシミュレーションを行っています。

粒子設計

当研究室では、粉体材料に各種の高機能性を持たせるため、粉体材料の大きさ、形状、密度、内部構造、さらには表面の特性を制御する方法やプロセスを考案し、実用化に成功しています。例えば、水に溶けにくい薬物の溶解性を改善し体内での吸収を促進したり、光の屈折を利用したフォトミックと言われる機能をもつメーキャップ用化粧品や、肌への刺激を極力抑えた紫外線遮蔽型ファンデーションの創製、機能性食品、薬物放出型農薬製剤、電子材料、電池材料など、我々が開発した技術の応用は多岐にわたっています。また、粒子設計に用いる方法として、粒子サイズを大きくする造粒操作、多成分の材料を均一に混ぜ合わせる混合操作、うどんやパスタの生地を作る混練操作、さらに、粉体材料をナノメートルからミクロンサイズまで微細化する粉砕操作など、新しい粉体の処理技術の開発にも力を入れています。

スケールアップ

小型の実験装置で試作した製品を、大型の商用装置でも同じように製造する方法を明らかにするのがスケールアップです。粉体材料は、水などの液体(流体)と異なり、個々の微小な粒子の集合体であり、また、それぞれが独立して存在しているため、粒子と粒子の間に作用する付着力などの相互作用を考慮する必要があります。そのため、スケールアップは一般に容易ではありません。我々は、小型の実験装置から大型の商用生産機までのスケールアップを実験と数値シミュレーションの両面から解析しています。なお、右図は、粒子離散法と呼ばれる数値シミュレーションにより、撹拌混合器のスケールアップを解析した一例です。

計測と制御

高性能な粉体材料を効率良く製造するには、製造中で生じる反応や現象を、リアルタイムで監視する必要があります。我々は、粉体プロセスで使用できる各種のセンサーを開発しています。例えば、造粒操作では、粉体材料の湿潤度が非常に重要であり、これを管理・制御するために考案したのが赤外線式水分計です。本センサーは非接触で、連続運転が可能であり、粉体材料の湿潤度(水分値)をリアルタイムで計測することが可能です。現在、国内外の大部分の製薬会社で、本センサーによる製造管理が行われています。また、製造工程中の、粒子の大きさや形状をリアルタイムで計測し、目的とする値に自動制御することを、画像解析装置により実現しています。前述の赤外線式水分計と画像解析装置は、米国FDA(食品医薬品局)でもその利用が推奨されています。その他、粉体プロセスの静電気の計測と制御や、各種のオンラインセンサーの開発、自動制御技術の確立などに関しても研究を進めています。

微粒子プロセッシング

近年、科学技術の進展にともない、必要とされる粉体材料の大きさはまずます微小化する方向にあります。粉体材料を構成する個々の粒子が小さくなればなるほど、重力に対する粒子間付着力の比は大きくなり、粒子同士は付着・凝集するようになります。このような微小な粒子を凝集させることなく、その表面をコーティングしたり、表面改質(表面物性を改良する)ことは非常に重要な課題でありますが、未だに確立した技術は考案されていません。我々の研究室では、超臨界流体や、高遠心力場を利用した新たな粉体処理技術を開発し、実用化に向けた検討を行っています。

各種粉体プロセスの数値シミュレーション

粉体プロセスの開発・設計・最適化を行う際、粉体処理装置の内部で粉体がどのように振る舞うのかを把握することが重要です。しかしながら、多くの場合、装置内部における粉体および粒子の挙動は非常に複雑であり、実際に観測することは容易ではありません。そこで、離散要素法(DEM)や数値流体力学(CFD)などの計算手法を駆使し、各種粉体処理装置における粒子挙動の数値シミュレーションを行っています。右図はその一例で、乾式衝撃式粉砕機(ハンマーミル)における気流および粒子挙動のシミュレーション結果を示しています。シミュレーション結果から実験では観測することができない有用な知見を引き出し、粉体プロセス内で起こる現象の解明や、装置の開発・設計などに活用しています。

ナノ粒子の細胞膜透過現象の解析

現在、ナノ粒子を利用した治療技術が注目を集めています。治療効果を最大限に引き出すためには、ナノ粒子を標的とする細胞内部に送り届ける必要があります。そのためには、粒子は細胞を覆う細胞膜を透過しなければなりません。そこで、ナノ粒子が細胞膜を透過する現象を分子動力学(MD)シミュレーションにより解析し、どのような粒子を開発すればより高い効果が得られるのかについて研究を進めています